UV硬化粉体塗装
木質基材へのUV硬化粉体塗装開発コンセプト
1. 従来の溶剤型塗装では4回以上塗装していたが、粉体塗装の厚膜(60~120μm)をもって、1回塗りで仕上げる(工程短縮)
2. 溶剤を使用しない環境に優しい塗装システム
3. 粉体塗装ならではの仕上りを実現(御影調・ハンマート ン調・大理石調・木目調(柾目調)・テクスチャー 調など)
4. 従来の粉体塗装の焼付温度(200℃10分間)を100℃2分まで低温化→素材への熱付加低減
5. 適用素材(各種ワーク適用検討致します。御相談下さい)
・木質系 : 天然木、MDF、チップボードなど
・金属系 : 鉄・アルミ・マグネシウム合金など
・プラスチック系: ABS、塩化ビニルなど
詳細論文
環境に優しい塗装システムとして粉体塗装の用途拡大が進むなかで、木質基材への粉体塗装については、その関心の高さにもかかわらず研究開発の動きは鈍いものがあった。ヨーロッパでは10年も前から研究開発が始まり、既に実用化にまで至っている。弊社においては、木質基材への粉体塗装の実用化を目標に、8年来の研究開発を行なってきており、一応の塗装技術の確立をみたが、実用化には至っていなかった。しかし、ここ1年ほど、国内塗料メーカーのUV硬化粉体塗料への研究に進展が見られ、弊社でも、そのメーカーの試作品の塗料を用い実用化に向けた試験を続けてきた。得られたUV硬化粉体塗装システム開発の研究成果について、塗装業者の視点から以下に紹介する。
「木質基材へのUV硬化粉体塗装について 」
筒井工業株式会社
前島 靖浩
1.はじめに
VOC規制により、溶剤塗料の使用が控えられる時勢にあって、木質基材への塗装は、溶剤型塗装が大半を占めてきた。基材に水分を含むため、高温焼付塗装ができない弱点を持っていたことがその要因の1つとしてあげられる。多孔質含水基材は、高温焼付時に水分の蒸発を伴い、それにより塗膜を発泡させてしまったり、素材に反りやワレを発生させることがその原因であった(図1)。木質基材へ粉体塗装を行なうにあたり、素材への熱付加の低減が最重要課題とされてきた。それを解決するために、2つの塗料タイプが検討されてきた。即ち、超低温硬化粉体塗料とUV(紫外線)硬化粉体塗料である
※図1
2.超低温硬化粉体塗料
水分の蒸発は、90℃~100℃にかけて急激に発生する。それを回避するには2つの手法を併用する必要がある。1つは基材をあらかじめ予熱し、水分をある程度蒸発させることと、90℃~110℃で熱硬化し得る粉体塗料を用いることである(図2)。予熱をかける際に注意することは、基材の水分を完全に除去するほどの熱をかけてはならないことである。過剰乾燥は、素材の反り、ワレを発生させるばかりでなく、素材の導電性も奪ってしまう。静電粉体塗装においては素材に導通が無いワークに塗料を塗着させることができないからである。基材の熱により塗料の付着は多少あるが、塗着効率は悪い。
また、90℃で硬化する粉体塗料は製造することは可能でも、実際にそれを輸送し、保管し、塗装作業を行なうことは少々困難が伴う。こうした塗料はTgも低く、30℃以上の場所で保管した場合は、比較的短時間でブロッキングが発生し、また硬化反応も若干進行してしまうことがある。こうして発生したブロッキングは、仮にフルイで濾した塗料を用いたとしても、肌荒れや艶引け、密着不良を引き起こす可能性がある。塗装作業においても塗装機へのツマリや回収した塗料を再利用する場合に困難が予想される。しかしこうした点を十分考慮に入れれば実用可能な技術であり、既に米国ではこうした塗料が上市されているようである。国内では130℃ 20分硬化のエポキシ樹脂系粉体塗料は既に上市されているが、90℃10分硬化の塗料はいまだ出現していない様である。
図2 超低温硬化 粉体塗装
3. UV硬化粉体塗装
UV硬化粉体塗料は、文字どおりUV(紫外線)で硬化する粉体塗料のことであるが、紫外線だけでは成膜しない。粉体塗料を融解するIRが不可欠である(図3)。
図3 UV(紫外線)硬化 粉体塗装システム
近年ヨーロッパを中心にUV硬化粉体塗料に用いる樹脂の開発が進み、注目を浴びている。図3のようにIR1~2分間、UV数秒という極めて短時間での成膜が可能なシステムであり、品質・性能面からも海外での実績が数多く報告されている。その為、今後はUV硬化粉体塗装が木質基材への粉体塗装の主流になると筆者は考えており、弊社ではUV硬化粉体塗装設備を導入し試験を続けてきた。次項よりその研究から得られた知見に基づく技術的なポイントを塗装基材、塗料、塗装機、溶融・硬化炉、塗膜性能などについて順に述べる。
3-1 UV硬化粉体塗装を適用する基材
UV硬化粉体塗装が可能な基材は、天然木・MDF・チップボード・金属である。しかし適用に際しては、それぞれに注意が必要である。
3-1(1) 天然木
天然木は、含水率が非常に高く、導管も多い。IR溶融の際にはここから多量の水蒸気の発生があり、発泡してしまうことが多い。粉体塗装の特色である1回塗りで仕上げることは困難であると筆者は考えている。発泡を抑えるプライマー(粉体でも溶剤塗料でも可)が必要であり、その上に仕上げの上塗りUV粉体塗装を行うのが望ましい。また導管から出るヤニ等がハジキ(または発泡)の一因になっている。但し木材の種類や、ワークの肉厚によっては塗装可能であると考えている。より肉薄且つ含水率の低い木材選定が可能であれば、(例えばベニヤの様なものであれば)充分可能性はあると考えている。
3-1(2)MDF
最も塗装し易い基材である。含水率の低さと、表面の緻密さを兼ね備えており、またノンサンディングで塗膜の密着が確保できることが多いことから、今後のUV硬化粉体塗装の主流基材はMDFになるものと思われる。但し、製品によっては塗装基材に溝加工がしてあるものがある。切削工程を経たMDFは、多少のケバが表面に出ており、簡単な研磨くらいでは、粉体塗料の厚膜を持ってしてもケバブツ不良になる可能性が高い。そうした部位には十分な研磨あるいはシーラー塗布後の研磨が不可欠である。
3-1(3)チップボード
含水率は低めだがMDFよりは発泡し易い。表面は凸凹であることが多い。塗装に際しては1回塗りで表面の凸凹が消えないことがある。この場合もシーラーまたは目止めの塗布か、UV硬化粉体塗料の2回塗りが必要になる。
3-1(4)金属
金属専用のUV硬化粉体塗料が開発されている。屋外使用できる耐候性の良い塗料も既に製造されている。この場合に注意するのは膜厚制御である。40~70μmに抑える必要がある。弊社でもアルミニウムにクロメート処理をしたワークに塗装してみたが、80μm以上の部位はことごとく1次密着で不合格になった。塗膜の収縮が著しく、金属との界面で歪みが出るために密着が悪くなるようである。
3-2 UV硬化粉体塗料について
3-2(1) 意匠性
UV硬化粉体塗料に用いる樹脂組成・光開始剤等については、筆者は少々不案内であるので割愛させて頂くが、それを用いて得られる塗膜の種類には以下の様なものが有る。
1.艶あり・平滑 / 溶剤並みの平滑性が目標だが、ユズ肌はのこる
2.艶消し・平滑 / UVの照射条件により艶むらが発生することも
3.艶消しテクスチャー(チジミ) / 細かい凸凹模様。全艶消し仕上げ
4.御影調 / 高温熱硬化タイプの御影調と同様の重厚な仕上り
5.ハンマートン調 / 高温熱硬化タイプのハンマートン調と同様の重厚な仕上り。マイカの添加量に注意。 過剰添加はUV透過不良による硬化不足を招く
6.メタリック調 / マイカの添加量に注意。過剰添加はUV透過不良による硬化不足を招く
7.弊社オリジナル / 柾目調、大理石調 いずれの場合も熱硬化性粉体塗装では可能だったものであるが、UV硬化粉体塗装でも同様のものが得られることを示している。
MDFへのUV硬化粉体塗装 「白御影」↓
MDFへのUV硬化粉体塗装 「大理石」↓
3-2(2) 塗料の貯蔵安定性
UV硬化粉体塗料は、融点が70~80℃、Tgが40~50℃程度に設定されている。市販されている熱硬化の粉体塗料は、融点が110~130℃前後、Tg60~80℃であることから、UV硬化粉体塗料は、熱に対する耐性が比較的劣り、それゆえ貯蔵時の温度管理が必要になることが推測される。気候のよいヨーロッパでは夏場でも特に空調室を設けるような処置はされていない様だが、日本では夏場の高温多湿による塗料のブロッキングが起こる可能性が極めて高い。夏場と季節の変わり目の多雨多湿期には、空調室での保管が無難であろう。また、塗料製造後、塗装業者へ輸送する際も、冷蔵車を使うほうが望ましい。トラックの荷台内は意外と高温になるものである。 また、塗料を製造する場合は、多少のレベリングや塗着効率を犠牲にしても、滑剤(シリカやアルミナ)を多めに添加する必要もあると筆者は考えている。 仮に温度によってブロッキングしてしまった粉体は、フルイを通して使うことができる。UV硬化粉体塗料は温度に対し、融解することはあっても硬化反応が進行することはないため、フルイを通せば使用できる。 光に対しては多少反応が鈍く、屋内の室内光にさらされても、急激にブロッキングが進行することはない。従って通常の塗装作業において光による弊害はまずないと思われる。但し直射日光にさらされた場合は、ブロッキングが発生する。
3-3塗装機について
3-3(1) ガン静電粉体塗装の塗装ガンには、トリボガン(摩擦帯電)とコロナガン(コロナ放電)タイプがある。いずれの場合も水分を含んでいる木質基材であれば塗料を塗着させることができる。トリボガンは、それ自体フリーイオンを発生させないため、仕上り肌がきれいで、入りこみ性も良いといわれているが、メタリック系の塗料を用いた場合は、アルミ粉(メタリック顔料)を帯電・塗着させることができないため仕上りが悪くなる。コロナガンは、静電反発に注意しながら塗ればメタリック系塗料も塗れるし、入りこみ性もガンの設定でフォローできる場合も多々ある。設定電圧は30?60Kv程度が望ましく、これ以上上げると静電反発し易くなる。製品の目標仕上りを鑑みて、ガンを選択するべきである。
(表1) 表1ガンタイプと塗装仕上がり
| ガンタイプ | 仕上り肌 | メタリック対応 | 入りこみ性 | 評価 |
| トリボガン | 比較的良好 | 不可 | 比較的良好 | メタリック系無ければ可 |
| コロナガン | 静電反発に注意 | 可能 | 凹部比較的悪い | 可 |
3-3(2)集塵機
サイクロン集塵機を用いてUV硬化粉体塗料を回収する場合は、回収した塗料がブロッキングしている可能性が高い。再使用する場合は必ずフルイを通してから用いるべきである。また多色小ロットの生産体制を取る場合は、思い切って吹き捨てで塗装するのも1つの手段である。
3-4 塗料の溶融・硬化について
熱風循環方式のみでの粉体の溶融も可能であるが、基材が所定温度(100℃以上)に達するまでに時間がかかることや、基材の中心部が温まりにくい(温度むらになる可能性がある)ことが欠点としてあげられる。IRは、基材表面の塗料から選択的に加熱することができるので、より均一かつ基材に対する熱付加を低減できるといえる。但しIRといえど、過剰に加温し続けると、発泡やチジミが発生するので、その制御には充分注意が必要である。
3-4(1) IR炉
IRによって塗膜を溶融する過程について図4、表2にまとめた。UV硬化粉体塗料の仕上がり外観を決定するのは、このIR炉の制御にかかっている。IRの種類としては様々なものが考えられるが、弊社ではセラミックヒーター(電流式)を採用している。ヒーターの表面温度は400~500℃くらいまで上がるものが望ましい。通常10~20灯の直線形ヒーターをワーク進行方向と垂直に配列する(図5)。ワークとランプ間の距離は30~100mm程度、炉内の雰囲気温度は100~120℃が望ましい。この際大切なのは、ランプごとの温度調節である。UV硬化粉体塗料を溶融させる場合は、前半はランプ出力を最(100%)にし、素早く基材の表面温度を100℃以上に持っていく必要がある。そこで粉体を一気に融かす。その後、後半のランプは出力を50%程度に抑え、さらに熱風循環を併用することで、塗膜をより平滑にかつ基材からの発泡を抑えた形での溶融が可能になる。これらの条件は、コンベアスピード゙・IRランプ性能・塗料種類・塗装基材肉厚・季節によって変化し、設定を誤まると目的の意匠性を再現性良く得ることはできない。
図4 IR(赤外線)と熱風のコンビネーション
図5 ランプ配置例
表2 MDFの表面温度変化
3-4(2) UV乾燥炉
顔料濃度や膜厚の大変高いUV硬化粉体塗料を硬化させるには、例えばカラークリアー(半透明)の液状UV硬化塗料を硬化させるのに用いる高圧水位銀ランプではそのUVピーク強度が不充分である。より強い紫外線強度を持つランプを用いる必要がある。弊社ではランニングコストを考慮に入れて、キセノン社のパルスランプを採用している。このランプは、ストロボのようにUV光が瞬き、その1ショットは、高圧水銀ランプをはるかにしのぐピーク強度を持っている。これにより100μmにもなる粉体塗料内部まで光が打ち込まれ硬化反応が完了する。他にも種々のランプがあるが、その全てを試しているわけではないのでここでは言及しない。どの様なランプを用いるとしても、ランプとワークの距離・角度が重要である。 パルスランプを用いた場合は、20~70mmの距離が有効である。近すぎたり、コンベアスピードが遅すぎて長時間UV照射にさらされる場合は、基材が過剰に加温され、発泡したり、チジミが発生する。またランプが遠すぎる場合や、コンベアスピードが早すぎる場合には、硬化不良になる。また、照射角度も重要である。ランプの照射方向に対し45~90°は問題なく硬化させることができるが、それ以下の角度では、硬化不良になる(図6)
図6 UVランプ照射角度と塗膜の硬化
3-5 塗膜性能について
UV硬化粉体塗膜の性能について 表3にまとめる。製品として必要な物性は満たしているといえる。
表3 UV硬化粉体塗膜の基本物性
2mm 25マスセロテープ法 25/25 耐薬品性 酢酸44% 6時間 良好 耐薬品性 アンモニア水10% 良好 耐溶剤性 キシロール50回拭き 塗膜の溶解なし ラッカーシンナー・アセトンでも同様の結果 材料反り 隙間ゲージ 片面塗りの際は反りが発生 両面塗りも検討 鉛筆硬度 ひっかき法 H以上
| 試験項目 | 方法 | 結果 | 備考 |
| 碁盤目密着試験 | 2mm 25マスセロテープ法 | 25/25 | |
| 耐薬品性 | 酢酸44% 6時間 | 良好 | |
| 耐薬品性 | アンモニア水10% | 良好 | |
| 耐溶剤性 | キシロール50回拭き | 塗膜の溶解なし | ラッカーシンナー・アセトンでも同様の結果 |
| 材料反り | 隙間ゲージ | 片面塗りの際は反りが発生 | 両面塗りも検討 |
| 鉛筆硬度 | ひっかき法 | H以上 |
3-6 リコート性
基本的に研磨が必要である。ノンサンディングで塗った場合は、1次密着で不具合が出やすい。上塗り後に不具合があり再塗装する場合には、確実に全面研磨をする必要がある。将来的にノンサンディングで上塗りが塗れる、下塗り専用UV硬化粉体塗料が開発されることはあるだろう。
4.UV硬化粉体塗装の用途
溶剤塗装並みの鏡面仕上げを、粉体塗装で構築するのはむずかしい。粉体特有のユズ肌が発生してしまうためである。これらを改善するには塗料の粒子径を均一にする、樹脂の溶融粘度・Tgを下げることが不可欠であるが、コスト面・貯蔵安定性・作業性の面でも問題が多い。現状の樹脂・塗料体系で市場のニーズに適応するには、粉体塗装の特徴を生かす形でのアピールをしていくべきであると思う。例えばUV粉体を下塗り用の塗料として用い、これまで2~4回塗っていた溶剤系下塗りを1工程に短縮することや、溶剤型塗装にはない1コート仕上げの意匠性塗膜を提案していくことが考えられる。そうして得られた実績の中で、今後の樹脂・塗料開発とあいまって、溶剤塗装の代替品としての道が開けてこようかと筆者は考えている。
5. 次の段階へ
今後UV硬化粉体塗装が国内で伸びて行くためには以下の事項を改善していく必要がある
5-1 塗料品質改善
溶融粘度やTgを維持しながら(または更に下げながら)貯蔵安定性を向上させる。また、塗料コストは市販の熱硬化粉体塗料と比較して2~4倍もの高値になっている。需要の伸びや、塗料メーカーの製造ノウハウの蓄積によりコストは下がるものと期待する。
5-2 塗装設備面の研究
IR/UV乾燥炉は知恵を出せば様々に改善することができる。 様々な客先のニーズに対応すべく、柔軟な設備構築を心掛けてい きたい。また、ランプの諸条件については、本資料にあるものは 参考に過ぎず、今後も様々に変化を遂げていくものと考えてお り、研究開発を進めていく。
5-3 市場開拓
顧客のニーズとして、「なにか新しいものを」という志向が強くなってきている。無溶剤で環境に優しい粉体塗装が、新たな意匠性を市場に提供できる機会は今後必ず増えるものと確信している。積極的に様々な業界への適用をアピールしていきたい。